プロジェクトストーリー~液化水素サブマージドモータポンプ開発秘話~

シンコーでは、世界初となる「液化水素サブマージドモータポンプ」の開発に成功いたしました。
これまでに培ってきた技術・経験が、脱炭素化に向けた世界のエネルギー輸送を支えています。

PROJECT 02液化水素サブマージド
モータポンプ開発秘話

PROJECT MEMBER

技術本部 設計一部 基本設計課
課長

1997年入社。LNGサブマージドモータポンプの設計業務に従事した後、液化水素サブマージドモータポンプの開発を担当。
その後も継続して、LNGおよび液化水素サブマージドモータポンプの設計業務に携わっている。
技術本部 設計一部 ポンプ設計課
課長

2000年入社。LNGサブマージドモータポンプの品質管理業務を経験し、LNGサブマージドモータポンプの設計業務に従事した後、液化水素サブマージドモータポンプの開発を担当。
その後も継続して、LNGおよび液化水素サブマージドモータポンプの設計業務に携わっている。

PROLOGUE

世界的に急務となっている脱炭素社会の実現はエネルギーシフトにかかっています。
そんな中、二酸化炭素を排出しない究極のクリーンエネルギーとして水素への注目度が高まっています。
シンコーは液化天然ガス(LNG)で培った極低温技術を活かして、液化水素を荷揚げするサブマージドモータポンプの開発に成功。
シンコーが製造した液化水素サブマージドモータポンプは世界初となる液化水素運搬船に納入されました。
今回は水素を輸送する上で欠かせない液化水素サブマージドモータポンプの開発についてお話を伺います。

お2人の仕事内容を
教えてください。

私の課ではお客様に納入するポンプの承認図を作成しています。他にもお客様からご相談があった際の見積もりも行います。なお、私が担当している製品はサブマージドモータポンプです。
私の課ではお客様から製品を受注した後、実際に製品を作るための手配を担当しています。社内の各部署や関連メーカーと連携しながら製品を作るための指示を行っています。なお、私が担当している製品はサブマージドモータポンプです。

プロジェクトのきっかけは
何だったのですか?

川崎重工業様から液化水素の荷揚げを行う液化水素サブマージドモータポンプを作ってほしいという依頼を受けて開発がスタートしました。依頼を受けたのが2010年。そこから開発をはじめて2019年に納品しました。
足掛け10年に渡るプロジェクトになりましたね。

開発の過程で苦労したことは
ありますか?

私たちシンコーはこれまでLNGの荷揚げを行うLNGサブマージドモータポンプの製造を行ってきました。LNGも液化水素も極低温技術を用いるという点では同じですが、その温度が異なります。
液化水素はLNGに比べて温度が非常に低く、比重も軽い。液化水素に関する知識のない私たちは、まず液化水素の専門家に話を聞きに行きました。国の研究機関や大学では液化水素に関する研究が盛んに行われており、きっと知見をお持ちだろうと思って紹介していただいたのです。
そうした努力を積み重ねながら、少しずつ液化水素に関する知見を手に入れていきました。
苦労したのはポンプに使う材料の選定ですね。従来のLNGがマイナス163℃であるのに対し、液化水素はマイナス253℃。
さらに水素ということで金属に与える影響もLNGとは違います。
なので「LNGサブマージドモータポンプで使用していた材料がそのまま使えるのか?」というところから開発をはじめ、材料決定まで模索を繰り返しました。

成功した時の気持ちは
どうでした?

日本ではまだ液化水素があまり用いられておらず、水素に対する規制が厳しいという現実があります。
なので私たちは開発した液化水素サブマージドモータポンプの試作機を液化水素が一般的な海外へはるばる輸送し、そこで運転試験を行いました。
海外での運転試験でLNGサブマージドモータポンプと同じ性能が発揮できたとわかった時はホッとしたのを憶えています。
話を補足すると、シンコーにはLNGのポンプ運転試験装置はあるのですが、液化水素のポンプ運転試験装置はありません。世界的にも液化水素でのポンプ運転試験が可能な装置は僅かに存在するだけです。なので試作機を作った時にシンコーでは液化水素の代わりにLNGで運転試験を行うしかありませんでした。
実際に液化水素を使って運転したのはその時が初めてだったので、うまくいったという連絡を受けた時はなおさら「よかったな」と実感しました。

今回のプロジェクトは今後、
世界に何をもたらすと
思いますか?

国として「2050年、カーボンニュートラルの達成」を謳うなど、燃やしても水と電気しか出さない水素は近年非常に注目されています。
今回の液化水素カーゴポンプの完成は海外から大量の水素を運ぶことを可能にします。それによって未来の子どもたちが持続可能な社会で幸せに暮らせればいいと思います。
世界のエネルギーの潮流は石炭、石油と変化してきましたが、次世代エネルギーは究極的には水素になるだろうと言われています。
これまで原油やLNGを船で大量輸送する際に使う荷揚げポンプを作ってきたシンコーが液化水素にも対応できるようになったことで、原油やLNGの供給と同じく水素エネルギーの供給にも貢献できればと思います。

今後挑戦したいことは
ありますか?

今回液化水素サブマージドモータポンプを作りましたが、今後社会は二酸化炭素を抑制する方向にますます進むと思われます。ただ、排出される二酸化炭素をゼロにすることは不可能です。
今後も対策が必要な二酸化炭素に対し、CCS(カーボン・キャプチャー・アンド・ストレージ/排出する二酸化炭素を回収し、地中などに貯留する技術のこと)に関連する機器を開発したいと思います。
カーボンニュートラルの実現には水素の他にアンモニアやエタノールも期待されています。
今回は液化水素に使用できるポンプの開発に関わりましたが、今後は液化アンモニアに使用できるポンプの開発にも取り組めればと考えております。